母の幻聴と幻覚

母の施設での生活は今思い返すと大半は穏やかに順調に過ぎて行ったと思えるのだが、実際は色々あった。

 

母は私の事は最後までちゃんと認識出来たし、去年の秋と亡くなる直前埼玉から会いに来た兄の事も認識出来た。

 

朝昼晩の食事もスタッフが部屋に迎えに来るまで落ち着いて待っていて、どんな物を食べたという話しをよくしてくれた。

 

いわゆる認知症とはちがう。

ケアマネジャーさんもいつも「お母様はしっかりしていらっしゃる」と言ってくれていた。

 

だが、不思議な事はよく言っていた。

 

「誰かがあまり好ましくない演歌を歌っていてうるさい」

「夕方になると童謡が聞こえてくる」

ので、「耳栓を買って来て欲しい」と言ったり、

夜10時にガラケーから私に電話をかけてきて「〇〇と△△←(ひまごの名前)が遊びに来ていてなかなか帰らないから早く迎えに来てちょうだい」と言ってみたり。

 

演歌童謡問題は施設のスタッフがそのような歌は誰も聞いた事がないと不思議がっていたので、幻聴だったのだろう。

 

ひまご滞在問題は、

「お母さん、それはたぶん夢だと思うよ」

と言うと。

「あらっ、そうなの?じゃあどうしたらいいの?」

と言うので、

「もう遅いから眠ってね」

と言ったら落ち着いた。

 

いちばん私が困ったのは「モノ取られ幻覚」だった。

母が言うには夜中にスタッフが勝手に冷蔵庫を開けてヨーグルトや乳酸菌飲料などのデザートを持って行ってしまうと言うのだ。

そして

「食べたいなら食べたいって言ってくれたらどうぞって差し上げるのに」と言うのだ。

やれやれ。

 

私が知る限り施設にそんなスタッフさんはいない。

毎週通っているとスタッフさんと顔馴染みになるので、どう考えてもそんな事をするようなスタッフさんがいるとは考えにくかった。

母の施設のスタッフは女性8割男性2割で40歳〜50歳位の方が多かった。

皆さん親切で働き者だった。

 

施設長に話すのはためらわれたので、まずは毎月初めに聴き取り調査に来て下さるケアマネジャーに話してみたらびっくりしていた。

そこで施設長も呼んで話したら施設長もびっくり、そして少し憤慨していたと思う。

ごめんなさい。

そりゃそうだよね。

だって母のゴミ箱には食べ終えたヨーグルトの空き容器、乳酸菌飲料の空き容器がちゃんと捨てられているのだもの。

あまり言うようならデザートに一つずつ番号と名前を書こうかとも思ったのだが、面倒なのでやめた。

 

モノ取られ幻覚は決して珍しい事ではなく、よく聞くのはお金や通帳を取られたと思い込み、家族や家に来るヘルパーさんに疑いをかけたりするといった事だが、母の場合はデザートなので、なんとか施設長には勘弁してもらった。

 

 

続きます。